
基礎からわかる解説シリーズ
社会全体でアクセシビリティを育てる時代へ
スピリッツ君とアクセスくんの会話(第1章)
これまでの連載では、アクセシビリティの基礎、必要性、便利さ、そして実践するための具体的な方法を学んできました。
しかしアクセシビリティは、個々のウェブサイトだけでは完結しません。
社会全体の仕組みの中で当たり前の文化として根づくことで、はじめて誰もが使える環境が整います。
この最終回では、未来に向けた社会の動きと、アクセシビリティと法律の関係性についてやさしく整理しながら、私たち一人ひとりができることを見ていきます。
デジタル化が加速する社会と取り残される人の課題
スピリッツ君とアクセスくんの会話(第2章)
ここ数年、デジタル化の進展によって多くのサービスがオンラインへ移行しました。
ウェブアクセシビリティが社会全体で重要視される背景には、次のような大きな変化と課題があります。
行政サービスのオンライン化
- マイナポータルでの手続き
- 各種オンライン申請フォーム
- 行政手続き検索サービス
学校・企業でもウェブ中心に
- オンライン授業やeラーニング
- 求人情報・採用手続き
- 社内ポータル
- 各種オンライン研修
これらはとても便利ですが、一方でこのデジタル化の便利さが使える人だけに偏ってしまうと、障害のある人、高齢者、外国人など、情報へのアクセスが困難な人々が、社会生活から取り残されてしまうリスクがあります。
例えば、あなたが毎日通う学校や会社の前の道路が、突然特定の人しか通れない道になってしまったらどうでしょう?
「メガネをかけている人は通れません」「車椅子の人は通れません」と言われたら、生活ができなくて困ってしまいますよね。
そのため、誰もが同じスタートラインに立てるようにするというアクセシビリティの考え方が、社会全体のルールとして、そして文化として求められるようになってきました。
法律が示すアクセシビリティの土台
スピリッツ君とアクセスくんの会話(第3章)
アクセシビリティに深く関わる代表的な法律が障害者差別解消法です。
この法律は、障害のある人が社会生活を送る上で不便を感じることがないよう、社会全体で支えることを目的としています。
ここではアクセシビリティと特につながりの深い2つの柱を「お店の入り口」に例えて説明します。
※法律の細かい内容については別の記事でやさしく解説する予定です。
不当な差別的取扱いをしないこと
これは理由なく断ってはいけないというルールです。
例えば、お店でお客さんに対して「車椅子の人は入店禁止です」と言われてしまうと困る人も出てきますよね。
ウェブサイトでも同じです。
- 「目が悪い人はこの申し込みフォームを使えません」と、利用そのものを拒否してしまうこと
- 「マウスが使えない人は手続きを断ります」と、必要のない条件を課して排除すること
こうした排除につながる行為は不当な扱いになります。
合理的配慮を提供すること
これは困っている人の状況に合わせて、無理のない範囲で必要な対応・工夫を行うことです。
もしお店の入り口に段差があって車椅子の人が入れない時、「手伝ってくれませんか?」と言われたら、店員さんはスロープ(板)を出したり、車椅子を持ち上げたりして手伝いますよね。これが合理的配慮です。
※2024年4月1日から、民間企業にも合理的配慮の提供が義務化されました。
ウェブサイトでの「手助け(合理的配慮)」には、以下のようなものがあります。
- 小さく読みづらい文字の大きさを変更してもレイアウトが崩れず、誰でも読みやすい表示を可能にすること
- マウス操作が難しい人向けに、キーボードだけでも全てのボタンやリンクを操作できるようにすること
- 画像が見えない人でも内容がわかるように、適切な「代替テキスト(alt属性)」を設定すること
これらの取り組みはすべて合理的配慮にあたり、アクセシビリティの実践そのものです。
つまりアクセシビリティは、法律が求める「誰も排除しないための最低限の土台」ともいえる考え方です。
法律よりも大切なのは思いやりを仕組みにすること
スピリッツ君とアクセスくんの会話(第4章)
電車で席を譲るシーンを想像してみてください。
「優先席というルールだから譲る」のも大切ですが、「あ、大変そうだな」と自然に席を譲れるほうが素敵ですよね。
アクセシビリティも同じです。
法律で決まっているからやるのではなく困りごとに気づき、誰もが安心して使える環境を用意するという姿勢こそが大切です。
そしてこれは、特別な誰かのためだけの話ではありません。
私たち自身も、怪我をして片手が使えない時期があったり、年齢とともに小さな文字が見えづらくなるなど、日常の中で不便を感じることは必ずあります。
だからこそ、「自分が困るかもしれない」「家族がいつか必要になるかもしれない」という、自分ごととして捉える視点がとても大切です。
この視点があると、身の回りの小さな不便に気づきやすくなり、それを少しずつ減らす行動にもつながります。
こうした一つひとつの気づきと改善の積み重ねが、結果としてウェブ全体を便利にしていきます。

未来のウェブをつくる組織のコツ
スピリッツ君とアクセスくんの会話(第5章)
個人の工夫だけでは限界があります。
ウェブを運営する組織として取り組むときには、できることを無理なく続けられる仕組みにしておくことが大切です。
ここでは、今日から始められる「組織向けの3つの基本ポイント」を紹介します。
1.まず目印を置く:アクセシビリティ方針
最初の一歩は、難しい技術ではなく 「方向性の明確化」です。
1ページにも満たない短い文で構いません。
「どの範囲で、どのレベルを目指すのか」を決めたアクセシビリティ方針を作るだけで、チーム全員が同じ方向に動けるようになります。
2.続けやすい基本チェックをつくる
大切なのは、専門知識がなくても確認できるシンプルなチェックを社内共通ルールにすることです。
例えば次のような誰でも気づけるポイントを最低限のチェック項目としてまとめると効果的です。
- 文字が小さすぎたり色が薄すぎたりしないか
- 重要な画像に「何の画像か」が分かる代替テキスト(alt)が入っているか
- リンクが「どこへ行くか」分かる文言になっているか
- 色だけで情報を伝えていないか
- 見出しの順番(h2 → h3 → h4…)が大きく崩れていないか
どれも数分程度で確認できる内容ですが、複雑な技術を使わずに品質を保つことができます。
この簡単な共通チェックがあるだけで、初心者や新しく参加したメンバーでも迷わず取り組めるようになります。
3.困っている声を改善のヒントにする
利用者から届く問い合わせや「使いづらい」という意見は、組織にとって貴重な改善のヒントです。
「できていない証拠」ではなく、「より使いやすくするための気づき」として活かすことで、アクセシビリティは自然と向上していきます。
小さな改善の積み重ねこそが、組織としての取り組みの質を高めていきます。
今回のまとめ
アクセシビリティは、社会全体で向き合うべき重要なテーマです。
オンライン化が進むほど、情報へたどり着きにくい人が取り残される課題も増えます。
法律(障害者差別解消法)は、その課題を解決するための最低限の土台を示す法律ですが、アクセシビリティの本質は思いやりを仕組みにすることにあります。
そしてその未来をつくるのは、私たち一人ひとりの小さな工夫です。
今日から始められる改善が、誰にとってもやさしいウェブを育てていきます。
スピリッツ君とアクセスくんの会話(今回のまとめ)
出典:政府広報オンライン「誰もが利用しやすいウェブサイトに(ウェブアクセシビリティ)」
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/202310/2.html(外部リンク)
全5回でわかるウェブアクセシビリティ連載
- 第1回 ウェブアクセシビリティとは?
- 第2回 なぜウェブアクセシビリティを向上させる必要があるのか
- 第3回 ウェブアクセシビリティが確保されたウェブサイトはどんなふうに便利?
- 第4回 実践!ウェブアクセシビリティを高める基本チェック項目
- 第5回 すべての人がアクセスできる社会を目指して(本ページ)




